いなばのゆるぽ旅

自転車旅を振り返ります

【修行】2021/6/21 郡山―新潟ラン

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今回のルート

 

 2021年6月20日の夜、翌日の天気予報を確認する。久々の晴れだ。ちょうど研究室でやらなくてはいけないことも無い。これは走るしかない。

 

 大学4年間のうちに、長野県などで走りたいと思っていた場所は概ね制覇してしまっていたので、なにか新しいルートを考える必要がある。修士1年の秋に走った只見線は自分の走力限界ギリギリを攻めつつ、見どころもたくさんありとても充実していた。あのようなランをまたやりたい。そう考えたとき、自分の選択肢が意外と狭いことに気付いた。自分でルートを作って一人でランをする時は当然自分勝手にルートを組むが、以下の3つの制約の下組まざるを得ないのが現状だ。

 

  • ① スタート及びゴール地点がある程度アクセスの良い鉄道駅である。

 さらに詳しく書くと、スタート地点については(1)新幹線駅である。(2)赤羽もしくは国立駅から乗り換えが1回程度でアクセスできる。(3)東京、赤羽、国立いずれかの駅の始発列車に乗って、ある程度早い時間につくことが出来る。これら3つの条件のいずれかを満たす駅で無いと、アクセスに時間が掛かりすぎて満足に自転車に乗る時間を確保できない。まあ、西は松本駅、北は二本松駅(福島のやや南辺り)をスタート地点にしたこともあるので、あまり厳しい制約とは言えない。

 ゴール地点については、新幹線駅であればすぐに東京に戻ってこられると考えているが、こちらも鶴岡や会津若松などの、4時間以上かかるルートで帰ってくることもあるのであまり厳しいとは言えない。

 しかし、青森や岐阜などは、あまり鉄道が通っていないことや、そもそも東京から遠いことから、走ってみたい場所もいまだ走れないのが現状である。

 

  • ② スタートとゴールの距離が200km以下である。

 これは単純に自身の走力の問題である。200kmと大雑把に書いたが、獲得標高についても同時に考慮する必要がある。180km獲得1,000mや150km獲得1,500mであればギリギリ行けそうな気がするが、それ以上増えたら厳しい気がする。当然気温などの制約も受けるためあいまいな基準ではあるが、何となくの感覚でいけるか否かを判断した上でルートを組む必要がある。

 

  • ③ゴールに温泉がある。

 誰が何と言おうと、これは天地がひっくり返っても譲れない絶対条件である。

 

 1つ目と3つ目は自分ではどうしようもない条件だが、2つ目については自身の走力、限界を正確に把握する、そして走力、限界の上限を上げることで改善の余地があり、より自由度の高いルートを組むことが可能になる。

 

 そこで考えた。少し無茶に思えるようなルートを組んで自分に走らせることで能力の上限を上げよう。要するに修行をしようではないかと。梅雨が続いてなんとなく走り足りない思いもあったせいか、このような考えに至り、そして実行したのが今回のランである。今までの景色や見たいところ優先のルート設計ではなく、とりあえず距離の遠いところを繋いで走ってみる脳筋ランだ。今までの稲葉の旅のコンセプトとは乖離してしまうが、これを機に地図には載っていない新たな景色が見つけられるかもしれないし自分のランの幅も広がるのでやってみることにした。

 

 ルートの候補としては以下の3つがすぐに挙がった。いずれも今までスタートもしくはゴールとして利用したことのある駅を結んだルートである。

 

 途中で奥只見湖や樹海ラインなどの絶景ポイントっぽい場所があり、従来の稲葉ランの楽しさを含みつつ、圧倒的獲得標高で自身を苛め抜くセルフ飴と鞭ルート。只見周辺が素晴らしいことは既に以前の只見ランが証明しているのでぶっちゃけめちゃくちゃ走りたい。

  • ② 高崎→新潟ルート(230km獲得1,900m)

 ①よりは距離が伸びているが、獲得標高が大幅に減っているため割と現実的なルート。高崎も新潟も輪行駅として何度も利用した経験があるためそこも安心ポイント。序盤に悪名高い三国峠があるが、そこを乗り越えてしまえばあとは割と下り基調なので序盤さえ耐えれば行けそう。途中には素晴らしい田園が広がる南魚沼があるためそこも楽しみ。しかも、すぐそばを鉄道が走っているため万が一のトラブルの際には途中リタイアもできるので安心。

  • ③ 郡山→新潟ルート(180km獲得1,000m)

 上2つと比較したら距離獲得標高いずれも優しいが、十分に距離を走れるルート。道中にめぼしい景色などがなさそうなのでモチベーションを保てるかが少し不安。

 

 文章のノリから分かる通り、①が一番走りたいが、今まで経験したことが無いくらいえぐい。多分日帰りするのは無理だとは思われるが、軽く下調べをした時に見つけたブログで書かれていた、樹海ラインの描写が非常に魅力的でめちゃくちゃ走りたくなってしまった。梅雨の中の貴重な晴れ間に加えて絶景候補を見つけてしまった喜びで、ルートを考えるだけで楽しくなってしまった私は、さっそく翌日このルートを走ることを決意する。無事走り切れるとも思えないが、もう止まれない。行くしかない。

 

 

 そして翌朝4時、起きた時点ではまだ雨が降っていたが、予報では今回行こうとしている付近は雨が降らなそうなのでとりあえず出発することにした。しかし天気を調べている時に衝撃の事実が発覚した。なんと、走ろうと思っていた国道352号がまだ冬季閉鎖期間中で通行止めされているというではないか。なんということだ、もう6月も半ば過ぎたのにまだ通行止めなのか…。嗚呼…走りたかった…。

 

 352号を走れないのは惜しいが、せっかくの晴れの機会だ。どこか走らないともったいない、ということで③の郡山→新潟ルートを走ることにした。②でも良かったのだが、高崎を出発地とするならば赤羽まで走って輪行するのが経験上一番良いが、まだ雨が降っていて流石に厳しかった。始発には間に合わなかったが、最寄駅から輪行し、大宮で新幹線に乗り換えて郡山に向かう。今までなにも考えずに新幹線に乗る時は東京駅から乗っていたが、北に向かう際は大宮から乗る方がお得だということに今回初めて気が付いた。

 

 

 郡山で輪行を解除し、いよいよスタートだ。まずは郡山から少し登りながら東に向かい、会津若松を目指す。まだ少し雨は降っているが、天気予報アプリによるとこの後は止みそうなので構わず出発する。実はこのルート、大学3年の頃に走ったことがあったため、実に3年ぶりに走ることになる。特にいい景色があるわけではないが、3年前に休憩した場所で再び休憩したりすると懐かしい気持ちになる。悪くない。

 


 初めは降っていた雨もすっかりやみ、遠くに見える磐梯山には青空も見える。

 緩やかな登りを終えて猪苗代湖についた。強清水という湧き水で有名な場所で昼ごはんに蕎麦をいただき、湧き水をボトルに汲んで午後のランをスタートする。残り120kmあるが、登りはほぼ終わり気温もそこまで高くない。これならいけそうだ。

 

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猪苗代湖畔から見る磐梯山

 

 

 ここからが地獄だった。

 

 

会津若松を通過し下りが始まるかと思った矢先、強烈な向かい風が吹き始めた。めちゃくちゃ強い。会津若松を過ぎてすぐのところにある道の駅で天気アプリで確認すると、7m/sの風がこの先ずっと吹き続くことが判明した。なんてこった。普段ルートを組むとき、なにかと風向きを確認し忘れて風に苦しめられることはあったが、今までのとはレベルが違う。100km以上ずっと向かい風は経験したことが無い。暗雲が立ち込め始める。しかし、いつまでもここで留まっていてもどうしようもない。覚悟を決めて再度走り始めた。

 

この先60kmほどはほとんど覚えていない。ただただ辛かった。いつも通り漕ぐと20km/h程度しか出ない。しかもめちゃくちゃ疲れる。ただ走るしかない。いや、むしろいい訓練だと思ってとにかく走る。走る。走る。途中、只見線の表式が見えてめちゃくちゃ行きたくなるが気持ちをぐっと抑え、あまり代わり映えのしない景色の中を、向かい風の中を進んでいく。途中いくつかいい感じの場所があったので写真だけ貼っておく。

 

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将軍杉

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こういう隧道好き


 

 残り40kmほどになると風が収まってきた。おお、風が収まると何と走りやすいことか。しかし、向かい風で足は削られ、残り40kmが果てしなく感じる。しかもここにきて再び雨が降り始めた。なんてこった。予想以上に時間が掛かってしまったため、雨宿りなどしていられない。このまま走り続けるしかない。なにもない道を雨に降られながらひたすら走る。

 

 ボロボロになりながら残り20kmまできた。ここにきて雨も収まってきた。20kmなら1時間程度で行けるはずだ。この時点で日は沈みかけていたためのんびりしていられないため、最後の力を振り絞りがむしゃらに漕ぎ続ける。終わりが見えてきたことで体にも元気が戻り始めた。限界を超えてゴールに向かい続ける、これぞ修行。汗と雨でぐちゃぐちゃになりながらとにかく飛ばす。足が吊りそうになるが構わない。むしろ明日の筋肉痛を楽しみにしながらとにかく飛ばす。

 

 

 そしてついに新潟市街に入り、目星を付けていた温泉についた。多少高いが、レビューの評価も高く内装も素敵でとても楽しみにしていた。疲れ切った体が温泉を求めている。しかし、ここで最悪の事態が判明した。なんとコロナ対策で県外の客の受け入れを注視していたのだ。なんてこった、、、なんてこった、、、なんてこった、、、ここまでコロナを恨んだことがあっただろうか、、、

 

 急遽周辺の日帰り温泉を探し、新潟駅の近くに1箇所見つけた。しかしここから5kmも離れている。今まで180kmも走ってきたのだから5kmくらいなんだと思われるかもしれないが、満身創痍でやっとついた、もう走らなくてもよいと気を抜いた直後にもう5km走らなくてはいけないと判明するのは話が違う。辛すぎる。もはや漕ぐというより這うといった感じでなんとか前に進む。

 永遠にも思われる5kmをなんとか走り切り、念願の温泉に飛び込む。生き返る。自転車でえぐった後の温泉は何事にも代え難い幸せに包まれる。溶ける。脳が、体が溶ける。1時間近く蕩けてしまった。当初行こうとしていたところには及ばないが、ここも良い温泉であった。やはり制約③は絶対だ。

 

 温泉から上がって最後の3kmを走る。さっきの5kmとは違う。これは言わばウィニングランだ。よく頑張った俺。よく耐えた俺。火照った体を雨で冷えた夜の空気が通り抜けていく。これもロングライドの醍醐味だ。そしてようやく目的地であった新潟駅についた。

 

 

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新潟駅前にて

 

 この時点で9時を回っていた。もはや空腹を感じないほど腹が減っていた。食わねば。こんなにえぐったのも久々だし、せっかくの新潟だし、久しぶりに一人で晩酌を楽しむことにした。

 いい感じの店を見つけすぐさま入る。端的に言って最高の店だった。とにかくなめろうがあり得ないくらい美味かった。そして日本酒も良い。一人で晩酌をする時は大抵日本酒飲み比べを注文するが、流石新潟、6種類合計2合の飲み比べセットが1000円で楽しめてしまった。最高。

 

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隠し味にマグロの身が入ったなめろう

 

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地方に行くと毎回飲み比べしちゃうね

 

 1回の夕飯で5,000円も使ってしまったが後悔はない。金を使ってこその旅だ。

 

 宿泊し慣れたネットカフェでベロンベロンに酔いながら、新潟の夜は更けていった。